おーい。遠回りするなよ

夏の深夜の国道でスーツからはみ出る長袖のシャツから出る手を振る客。乗り込むといきなり「おーい。遠回りするなよ。」
ニンマリする私になにがおかしい?遠回りするほど人生長くないんだと顔を前に近づける客。
「お客さん。遠回りは自分の人生だけで十分です。今も遠回りの途中ですが。いろんな風景が見えて良いものです。捨てるものあればひろうものあり、あ、お客さんに今拾われましたけどね。」
黙りこくった客は車が指定の場所に着くと
「転職するんだよ。希望していたとこはダメだった。回り道の途中を楽しむ事にしたよ。」
ドアが閉まるとタクシードライバーはポケットから少しよれた名刺を出した。
海の上ホテル 営業部長
営業の仕事をしないかと降り際に置いていかれた名刺。
連絡をしよう。タクシードライバーになりませんか?と。
少し先を見ると買い物袋を持ったお年寄りが手を挙げている。
乗ってくるとため息をついて、有名大学に行かせた上場企業にいる息子が心配で買い物してきて手作りのものを食べさせようと思ったらストレスで明日は胃カメラだから夕飯抜きと断られたとため息をつく。
仕事が終わって木造の家に帰ると待っているお袋のきんぴら牛蒡と味噌汁の匂いを思い出した。さあ、そろそろ今日の仕事は終わりにしよう。